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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1204号 判決

主文

原判決を取消す。

京都地方裁判所が同裁判所昭和五二年(手ワ)第六一三号事件について昭和五三年二月八日言渡した手形判決を認可する。

訴訟費用は異議申立後の第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

認可にかかる右手形判決主文第一項は仮に執行することができる。

事実

一  控訴人代理人は主文第一ないし三項同旨の判決並びに手形判決主文第一項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人代理人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

1 今村栄三から控訴人に対する本件手形の裏書は支払拒絶証書作成期間経過前の裏書であるから期限後裏書ではない。けだし、期限後裏書とは支払拒絶証書作成後又は支払拒絶証書作成期間経過後の裏書であつて(手形法二〇条)、支払拒絶後の裏書をいうのではないからである(大隅=河本・注釈手形法・小切手法二四〇頁)。したがつて、支払拒絶証書作成期間経過前に支払拒絶となつたことが手形面上明らかな手形の裏書は期限後裏書である、との被控訴人の主張は失当である。

2 控訴人は、今村栄三と被控訴人との間の事情を知らずに本件手形を取得したものであるが、その後調査したところによると、今村栄三は原判決添付別表二のとおりに被控訴人から弁済を受けたことはない。

(証拠関係)(省略)

理由

一 被控訴人の請求の原因2、3(原判決二枚目表三行目から五行目まで)は当事者間に争いがなく、この争いのない事実に成立に争いのない甲第一号証によると、被控訴人は、本件手形を今村栄三に宛てて振出したこと、今村はこれを満期日である昭和五二年一一月三〇日に支払場所に呈示して支払を求めたが支払を拒絶され、同日支払担当者である朝銀京都信用組合によつて本件手形に不渡付箋が貼付されたこと、今村は本件手形の支払拒絶証書作成期間内である同年一二月二日に本件手形につき被裏書人を控訴人とする裏書をし、控訴人は本件手形を所持していること、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

二 被控訴人は、本件裏書は支払拒絶証書作成後又は支払拒絶証書作成期間経過後の裏書でないが、支払拒絶後になされた裏書であるから手形法二〇条の趣旨に照らし指名債権譲渡の効力を有するにすぎないと主張するけれども、手形法二〇条一項(七七条)が「支払拒絶後」の裏書と規定せず、「支払拒絶証書作成後」又は「支払拒絶証書作成期間経過後」の裏書と規定しているのは、これをもつて形式的に明確な基準となるべき時点を定めようとする趣旨にほかならないから、右期間内の支払拒絶後の裏書をもつて期限後裏書と解することはできないというべきである(最高判昭和三一年一二月二一日裁判集民事二四号五四五頁、同昭和二九年三月一一日民集八巻三号六八八頁参照)。

そうすると、今村の裏書は期限後裏書に当らないから、その原因関係である被控訴人の今村に対する貸金債務が弁済によつて消滅したにしても、被控訴人において控訴人が害意をもつて本件手形を取得したことを主張立証をしない以上、控訴人の本件手形金債権に何らの消長を及ぼすべきものではないといわざるを得ない。

三 以上の次第で、被控訴人は控訴人に対し本件手形金一五〇万円及びこれに対する満期日である昭和五二年一一月三〇日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金を支払うべき義務があるから、控訴人の本訴請求はすべて正当としてこれを認容すべきところ、これと同旨の手形判決を取消した原判決は失当であつて、本件控訴は理由があるから原判決を取消し、手形判決を認可することとし、訴訟費用の負担について民訴法四五八条、八九条、九六条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

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